【畑】良いワイン畑の立地とは?

畑仕事

こんにちは!
急に夏日になったり、涼しくなったりと不穏な初夏ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

私は、仕事先のワイナリーでは、1mほどに伸びた枝をワイヤーに沿わせてあげる作業(新梢誘引)をしています。醸造は、瓶詰に向けてブレンドのサンプルづくりをしています。
自分の畑では、苗木植栽などで忙しかった4~5月を乗り越え、家族サービスの時間もとれるようになってきました。

今回は「良い畑の立地」についてです。
皆様がワイナリーやワイン畑を訪問される際に、より畑やワインのことを知るためのお役に立てればと考えています。
なお、最初にお断りさせていただきますが、ここで記載する内容はあくまで”私見”です。私を含めてブドウ栽培家はそれぞれの栽培方針、哲学のもとで畑を選んでいることをお含みおきください。

良い畑の立地は?

良い畑とは、「高い熟度で健全なブドウを恵んでくれる畑」です。
具体的には、以下の条件を備えた畑が理想的だと考えています。
 ①傾斜していること、その向きは東または南であること
 ②開けた場所に位置していること
 ③下層に砂や礫が含まれていること
それぞれ、見ていきます↓

①傾斜していること、その向きは東または南であること

“傾斜”、これがとても大切です。

傾斜していると多くのメリットがあります。
 ①日射角の関係で日照量が多くなり、ブドウの熟度を高めやすい
 ②雨が斜面の下に流れていくため水分ストレスをかけやすく、ブドウの熟度を高めやすい
 ③風が吹き抜けるため、病気にかかりにくい

傾斜の”向き”も大切です。日照量が多くなる、東か南が理想的です。
北向き斜面は日照量が少なくなります。西向き斜面は日没まで果実に陽があたり、夜間に果実の温度が十分に下がらないため、糖度不足、着色不良につながります。
「強い西日が当たるので、着色が良くなる」説もありますが、逆です。定説は、「着色を促進するのは”糖分”であり、その糖分は昼間に光合成で生成される。糖分はブドウ樹の呼吸によって消費されるが、夜間に果実や樹体が冷えれば呼吸量が少なくなるため糖分が浪費されずに果実に蓄積される。」のようです。

また、西向き斜面は朝日が当たるのが遅く、葉や実に付着した朝露が乾くまで時間がかかるため病気のリスクが高まります。

一方で、塩尻の一部などでは、昔水田だった場所を転換したワイン畑も見られますが、水はけが悪く、周辺が水田で湿度が高いことが多いです。ブドウの栽培にはよくありません。

②開けた場所に位置していること

森や建物が隣接していない、丘の上に畑がある等、開けた場所ほど日当たりと風通しがよく理想的です。特に、東御市や小諸市等の東信地域では浅間山山麓の南向き斜面に多くのワイン畑があり素晴らしい立地だと思います。

東信地域は開けたワイン畑が多いですが、そういった畑の確保には皆苦労しているそう

また、森に隣接している畑は害虫(コウモリガ)による枯死被害が多く、樹が飛び飛び(欠株)になってしまっている畑が多いです。また、森に近いと鳥獣害も多く、栽培で苦労することが多いです。

長野県内でもワインブドウ栽培が盛んな地域では条件の良い畑の確保が難しくなっており、森に囲まれた畑や谷底の畑なども見受けられるようになってきました。

③下層に砂や礫が含まれていること

雨の多い日本では畑の水はけは特に大切です。特に、収穫直前の降雨で果実が雨を吸ってしまい、薄まってしまうことは避けたいところです。

火山列島である日本の場合、表層は火山灰であることが多いですが、下層に砂礫が含まれていれば雨が速やかに浸透していくため、果実が雨を吸う時間を短くすることができます。

しかし、畑を見ただけでは下層土がどうなっているかわかりません。一つの推測方法として、畑の隅などにいくつもの大きな石が積まれている畑、石垣が積まれている畑などは、下層は石がらで水はけがよいことが推測されます。また、地質学的に扇状地に位置している畑は下層に砂礫が堆積していることが多いです。高山村の標高の低い畑や須坂市の畑は扇状地に位置しているため、石がらの畑が多いようです。

私の畑の近くのボーリング調査結果

逆説的ですが、一般的に粘土質土壌は水はけが悪いのですが、東信地域の”強”粘土土壌だと水が地下に浸み込む前に表層を斜面下に流れていくということもあるようです。

私の畑はというと…

色々と書きましたが、私の畑もすべての条件は備えてはいません。どの畑も傾斜はありますが、西向き斜面の畑もあったり、土壌は下層まで火山灰です。

ですので、様々な工夫をしています。例えば、病気が出やすい西向き斜面の畑にはピノノワールよりも耐病性のあるシャルドネを植えたり、ピノノワールを植えるとしても耐病性のあるクローンを選んで植えています。
また、私の住む飯綱町はどこも火山灰土壌ばかりなので、砂礫の畑はありません。代わりに、地形的に水はけがよい畑を選んでいます。具体的には、両側が切り立った尾根の頂上部を選んで畑を拡げています。両側が切り立っているので、降った雨はすぐに崖下に流れていき、いつでも水はけは最高です。

私の畑(第一圃場)…左右は崖になっており、水はけが良い畑です。

地主の方が農業を続けていたり、家から畑までの距離なども加味すると、思い描くような理想的な土地はなかなか得られないのが現実です。それでも地元の方々が永く守りつないできた畑でワイン造りをさせてもらえることには心より感謝しています。”与えられた土地”で理想を追求していきたいと思います。

次回は今回の続きで、標高の高い畑について書きたいと思います。最近、長野県では標高が高い畑(標高1,000m以上)が増えています。将来の地球温暖化を見越してのことだと思いますが、どうなのでしょうか。 引き続き、よろしくお願いいたします。

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